音MADの歴史の備忘録として、制作ソフトの変遷(動画編集)について書き残しておきます。できるだけ情報の精度を高めたいと思いますので、相違点や他の視点からの見方などについてご意見をいただけると幸いです。
また、私が主としてニコニコで活動していた期間の話になるので、ここ数年の動きについては把握できていないです。このあたりも補足していただけると幸いです。とくにMAC環境での編集について、本当に無知ですので、情報が欲しいです。
音MAD制作ソフト(動画編集)の変遷まとめ
動画編集ソフトの変遷
- Windowsムービーメーカ-、もしくはパソコンに入っていたVideostudioなどのソフトが多かったが、実にいろいろなソフトが使われた
- 編集ソフトとしてNiveが登場し、無料で使えることから導入する作者が増える(その後一定の勢力を確保)
- Vegasが音MAD作者に広く普及し、動画編集ソフトのメインストリームになる。Premiere ElementsなどVegas以外のシェアウェアも使われるが、一部にとどまる
- エンコード用に使われていたAviutlに動画編集機能が搭載され、使い勝手の良さと無料であることから、音MAD作者に広く普及する。以後、音MADの動画編集ソフトとしてはメインストリームになる
それぞれの詳細を次から記述していきます。
音MADの動画編集ソフトの変遷
ニコニコ動画初期の動画編集ソフト 群雄割拠の時代
2007年~2008年のニコニコ動画の初期では動画編集ソフトは、定番のコレ!というものはなく、各作者がそれぞれ自分なりの動画編集ソフトを使って編集していました。
フリーソフトでは、Windowsムービーメーカー(WMM)、VideoStudio9無償版、Jahshaka、trakAxPC、Waxなど、シェアウェアでは、VideoStudio、Vegas、Premiere Elementsなどが使われていました。
動画制作の講座動画ではWMMが紹介されることも多く、なんだかんだで当時では一番使われていた動画編集ソフトでした。また、フリーソフト、シェアウェアの両方においてVideoStudioが存在感を放っていた時代でもあります。
ニコニコ動画初期のフリーの動画編集ソフト
このなかでいちばんユーザーが多かったものはWindowsのPCにデフォルトでついてくるWindowsムービーメーカー(WMM)でしょう。しかし、WMMは「1トラックしかなく、動画を重ねることすらできない」、「出力形式がWMVのみ」、「エフェクトがとても貧弱」、「逆再生ができない」などの弱点を抱えていました。しかし、当時は動画を音に合わせて横につなげるだけでも充分なクオリティだったりして、WMMだけでも充分に音MADがつくれていました。また、画像を重ねる場合は静止画を出力して、Gimpなどを使って重ねるなどの涙ぐましい努力もありました。
他のフリーソフトではtrakAxPCは比較的にWMMと似たような使用感だったと思います。
JahshakaやWaxはそれに対して動画を横につなげるのではなく、加工することに長けていましたが、いかんせん海外製のフリーソフトで日本語化されておらず、使い勝手が悪かったため使用者はごく一部にとどまっていました。
VideoStudio9無償版はすこし特殊な背景をもつフリーソフトです。このソフトは、シェアウェアであるVideoStudio9の無償版ということで、動画を重ねたりエフェクトをかけたりという面ではWMMと比べてかなり充実したソフトです。ただし、ダウンロードできる期間が限定されていたため、あとで存在を知ってももう手遅れということが多かったです。ニコマスの動画で存在がPRされていたなどということもあり、ダウンロードしていた音MAD作者にとっては、WMMと並んで(しかもWMMよりもずっと使い勝手が良い)初期の音MADの映像編集を支えた大きな存在だったといえるでしょう。
ニコニコ動画初期の有料の動画編集ソフト
先ほど例としてVideoStudio、Vegas、Premiere Elementsをあげましたが、Vegasは今後大きく音MAD作者に普及されるソフトであり、Premiere Elementsも一部の愛好家が存在したソフトだったため、そのときに詳細を解説します。ただし、VideoStudioについては、残念ながらニコニコ動画の初期が終わったあとはかなり存在感がなくなってしまったソフトでした。そのためニコニコ動画初期を象徴する有料の動画編集ソフトとしては、VideoStudioかなと思います。
2008年~ NiVEの登場
2008年になると動画加工ソフトのNicoVisualEffects(NiVE)が登場します。これはWMMのように動画を音に合わせて横につなげる編集ではなく、動画を重ねたり凝ったエフェクトをかけたりという加工を得意としたソフトでした。
無料でダウンロードでき、これまでWMMが抱えていた弱点を解決できるソフトの登場でしたが、爆発的にシェアを伸ばすということはありませんでした。これはNiVEの操作が加工に特化したものであるためにかなり取っつきにくく慣れが必要なソフトだったという側面が大きかったと思います。NiVEは音に合わせて動画を配置するなどの編集作業が致命的に苦手なソフトだったということもあり、WMMなどの動画編集ソフトとの併用が前提となるソフトでした。
このような理由からフリーソフトで動画を編集していて音MAD作者に一気に普及することはありませんでしたが、NiVEの加工力は随一でありシェアウェアでもNiVEを超えるのは大変高額であったAfterEffect(AE)くらいしかなかったということもあり、NiVEは登場してからずっと徐々に徐々に使用者を増やしていきます。そして動画の加工ソフトとしては、AEをもっていなければNiVE一択という状態にまでなり、その後は動画編集ソフトとして大きく機能が拡張されたAviutlに完全に取って代わられるまでは加工ソフトの第一人者でした(AEは高いので)。
NiVEのじわじわ普及について
NiVEはじわじわと音MAD作者に普及していきましたが、そのなかでも音MAD作者として印象的だったのがHoshiさんです。2008年5月投稿された「もうランランルーしか聞こえない」ではNiVEで編集していることをコメントで書いていたこともあり音MAD作者のNiVEへの注目度を上げることにつながりました。
その後もHoshiさんは修造やエア本、チャー研の音MADの名作MADをつくられます。
ちなみにこれを書いている私も音MADに使えそうなNiVEのエフェクト紹介の動画をあげたり、生放送でNiVEの使い方を模索したりしました。
2009年~ Vegasの音MAD作者への本格的な普及
2008年はNiVEが登場しましたが、音MAD作者に大きく普及することがなかったのは先ほど説明したとおりです。しかし、その後に音MAD作者間に大きく普及して、一気に使用者を増やしたソフトがあります。それがSony Vegasです。
Vegasの普及の背景
Vegasの普及にも有力音MAD作者の存在がありました。中華ルドルフさん、自動販売機の中の人さん、FUNENGOMIさんがVegasの良さをTwitterやブログで発信したこともあり、Vegasの知名度が向上しました。そしてVegasには1か月の体験期間があったため、とりあえず体験で試してみてVegasの使いやすさに惚れ込み購入という音MAD作者が続出しました。シェアウェアとしては比較的に安価で購入しやすかったということもあるのだと思います。
これにより音MAD用の動画編集ソフトとしては、すこし意外ですがシェアウェアのVegasがメインストリームになります。
Vegasのここがスゴい!
もちろんただ有名作者がつかっていたからVegasが一気に普及したのではありません。音MAD動画の編集ソフトとして、たいへん適していた特徴があったのです。それは以下のようなことです。
- 動作がとても軽く扱いやすい
- BPMグリッド設定ができる
- 再生速度変更なども容易
- 音MADをつくるうえで充分なエフェクトが搭載されている
- 4トラックまで使えるので最低限の小窓表現なども問題なく可能
- 音声編集にも強いため、音と動画の同期がやりやすいだけでなく、音MADの音声の作成も可能
このような特徴があったからこそ、Vegasは音MAD作者に広く受け入れられました。Vegasを象徴するエフェクトとしては、普及の要因になったFUNENGOMIさんのCntuoneをはじめ、各種EvansMADなどでよく使われていたTVシミュレーターなどがあります。
Vegasはそれなりの加工力を持つもののとても凝った映像をつくるときには物足りないこともありました。そのときは軽い動作で音に合わせた動画編集を得意することから、先述したNiVEと連携させて動画を編集する音MAD作者もいました。また、4トラックという制限がのしかかることもありましたが、その際は何回も書き出しを繰り返すことで対応するなどという工夫もありました。
Vegasの現在
Vegasは現在でも根強く使われています。動画編集用だけでなく音MADの音声をVegasでつくっている人は現在でもおり、2010年以降はAviutlが大きく普及することになりますが、この時代にVegasを購入していた作者にとっては、一生の戦友と呼べる関係であると思われます。
閑話 その他の動画編集ソフトについて
ここまでは音MAD作者の間でたしかな存在感を放っていた動画編集ソフトを主として紹介してきましたが、これらの他にも動画の編集ソフトはありますので、そのソフトを紹介していきたいと思います。
Premiere Elements
私も愛用していたAdobeのPremiere Elements(PE)です。これはVegasほどではありませんが、それなりに音MADの動画がつくれたソフトです。Vegasと比べると、「やや動作が重い」、「テキストを使うと落ちることがある」などといった弱点もありましたが、「99トラックまで配置できる」、「プラグインでエフェクトを増やしたり、Waxと連携するなど、エフェクトが豊富」などという強みもありました。
しかし、Vegasと比べると音MAD制作という用途には向かなかったため、一部の愛好家が使っているという状態でした。
After Effect
動画の加工ソフトとしては最高峰のソフトですが、たいへん高額なソフトでした。しかし、同じ加工ソフトのNiVEと比べても圧倒的に使いやすいこともあり、有料のプラグインを追加することでさらにすごいエフェクトをかけることもできるなど、このソフトを持っている音MAD作者は憧れをもってみられました。
しかし、新聞裏(音MAD界隈の怖い人達)から割れ認定をされる作者が出るなどということもあるなど(割れの真偽はわかりませんが)、闇の一面も持っているソフトでした。
現在ではCreative Cloud(CC)で月額制で使うことができるため、就職をした音MAD作者が契約して使うなどということもあり、昔に比べると普及してきている印象があります。
ニコニコムービーメーカー
ニコニコの公式が用意した動画編集ソフトですが、無料版では静止画しか扱えないというものでした。しかし、音声だけの音MADをあげるときには便利だったため、利用者はかなりの数がいました。ヒトデマンシリーズの元凶となった仁勢さんの「ヒトデマン」もニコニコムービーメーカーでうpされた動画であるなど、音MADの歴史のなかでもたしかに役割があったソフトだといえるでしょう。
ニコニコムービーメーカー(有料版)
前述のニコニコムービーメーカーの有料版で、ついに動画を編集できるようになったのですが、使い勝手がとても悪かったため、音MAD作者にはまったく普及しませんでした。
MoviePro
これも有料の動画編集ソフトですが、宣伝記事に有名なMAD作者の全農連Pを起用したため、音MAD作者の注目を集めることになりました。そして、体験版をダウンロードしてその性能の検証などが行われましたが、音MAD制作にはまるで向かないソフトでした。しかし全農連Pを起用した宣伝記事のインパクトがあったためか、ネタで「MovieProは神」と言う音MAD作者が大量発生するなど、ある意味で愛されたソフトだったと思います。購入した音MAD作者は皆無だと思います。
Javie、CrystelEngineなどのフリーソフト
NiVEに遅れて出てきたフリーの動画編集ソフトですが、その頃にはすっかりVegasが普及したあとであったことなどから、一部の音MAD作者に注目されますが、結局メインの編集ソフトとして使われることはほぼありませんでした。その後はNiVEと同じく、拡張編集が追加されたAviutlに駆逐されることになります。
2010年~ Aviutlの大躍進 拡張編集機能
Vegasの普及後は音MADの動画編集ソフトでも大きな変化はありませんしたが、2010年以降に大きく躍進し普及したソフトがあります。それがAviutlです。
Aviutlはもともとはニコニコ動画の初期からエンコード用のソフトとして使われてきました。つんでれんこなどの簡単エンコソフトがでるまでは動画投稿用のエンコードはAviutlでやっていた音MAD作者が多かったと思います。
Aviutlは徐々に進化をしており、拡張編集を入れることで簡単な動画の編集が可能になっていました。それにより先述したNiVE用に音に合わせて動画を編集するためのソフトとしてWMMからAviutl乗り換えて、AviutlとNiVEのフリーソフトの組み合わせで音MADをつくっている作者もいました。
そして、2010年からこのAviutlの拡張編集機能が著しく進化することになり、合成モード、カメラ制御、スクリプト制御や様々なエフェクトがどんどんと追加されていきました。これまでNiVEでないとできなかったような動画の加工がAviutlでも可能になったのです。
Aviutlの使い方の講座動画なども充実していたこともあり、Aviutlと拡張編集機能は音MAD界隈だけでなくニコニコ全体で動画編集ソフトとして一気に注目されるようになります。そして、これまでのNiVEのポジションに取って代わり動画加工用ソフトとしての盤石の地位を築きあげるのでした。それだけでなくAviutlはNiVEの弱点だった音に合わせての動画の編集についても、音再生プラグインなどを入れたり、BPM設定もできるなど、高い実力を誇っていました。これによって音MAD作者の間でもAviutlが使いやすいらしいという情報が出回り、音MAD作者の生放送でもAviutlが紹介されるなど、どんどんと普及していきました。
Aviutlの普及とNiVEの衰退
Aviutlにはフリーソフトであるという大きな利点があり、2010年以降に新規で音MADというジャンルに参入してくる作者はAviutl選ぶ人がほとんどでした。もちろん、VegasやPEを購入していた作者は、Aviutlに移行せずにVegasやPEを使い続けた作者も多かったのですが、音MAD作者の世代交代とともに音MADの動画編集用のソフトとしてはAviutlと拡張編集機能という組み合わせが完全にメインストリームになります。
一方でこれまでフリーの動画加工ソフトとしては第一人者であったNiVEは衰退していくことになります。NiVEは2010年にバージョン2(NiVE2)がリリースされて、これまでのNiVEは開発終了となったのですが、このNiVE2の開発があまり活発でなくなったこともあって、徐々に衰退し、活発に機能が追加され続けているAviutlに完全に負けてしまうということになります。
Aviutlの躍進後の動画編集環境
その後は新しく画期的な動画編集ソフトがあらわれることはなく、依然としてメインストリームはAviutlです。一方で先ほどもいいましたようにVegasも勢力は小さくなりましたが、現在でもいまだ根強く使用者が残っています。また、AdobeのCCによってAEやPremierePro(PP)を使う作者もちらほらと見受けられます。
このあたりについては、私の知識が乏しいため、情報を提供いただけるとありがたいです。よろしくお願いします。